チャンスは一度きりだよ、シンジ君。
			その日、君はとても幸せな時間を過ごしていると思う。
			だけどもし、僕のことを思い出してくれたら、そのときはどうか……

			この場所に……



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			その日の天気は、僕の人生で二度目の雪だった。
			夜遅く、皆が寝静まった暖かい部屋をそっと出て、僕はひとり自転車に乗る。
			昼から夕方にかけて、雪は真っ白な空からまばらに降り続いていたけれど、
			道路にはまだそれほど積もっていなくてよかった。
			しっかり積もっていたら流石に自転車じゃ移動できない。
			あの街へはここから自力で行く以外に交通手段がないから、
			自転車が使えなくなればそこへ行きたくても、僕にはどうしようもなくなっていただろう。
			夜になって気温が下がったせいか、今は少しずつはらはらと大きめの雪が混じり始めた。
			本格的に積もるとしたらきっとこれからだ。
			道が閉ざされてしまう前に急がなきゃ。
			風に煽られるコートのフードを押さえ、厚く巻いたマフラーに顔をうずめながら、
			滑ってしまわないようにゆっくりと、僕は自転車のペダルを漕いでいた。
			絶対転んじゃ駄目だ。転んだらカゴの中のものがひっくり返ってしまう。せっかく手作りしてきたんだ。
			あまり荷物は持っていけないけれど、せめてこれだけは、と思って。
			だから絶対転ばないように、傾けてしまわないように、慎重に慎重に。でも雪で道が閉されてしまうより、早く。
			ばかりが急いてしまって、向かい風に押し返されるような自転車の進みがすごく遅く感じる。
			暗闇の中、たった一人で見慣れない景色を走り抜けることは、不思議とまったく怖くない。
			地図を何度も確認して、道はすっかり覚えてきた。あの街についてしまえば、きっと少しは土地勘も取り戻せる、と思う。

			そうやってこんな雪の中、人通りもほとんどない道を走って向かう先は、今はもう誰もいなくなった街、
			僕がエヴァに乗っていたときに暮らした、あのマンションの部屋だ。
			
			
			
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